星占い
（手紙）
「 １９９５年１１月１５日
大変興味深かいことが起こりました。さきほどドイツ人にも話しましたが、今度は日本語で書いてそちらに送ります。
今年から受け持った４年ドイツ語の講読のクラスのことなのです。このクラスでは、最初の授業で宣言したのですが、ドイツ語の占星術のソフトをもっているので、希望者にはホロスコープを作ってあげる。一種の自由宿題と考え、訳してきたら、見てあげるといっておいたのです。そうしたら、何週間目かにＵという女子学生が、申し込み、また数ヵ月後にＴ、Ｎという二人の女子学生が申し込んできました。それぞれ作ってあげましたが、学校のない、きょうの午前中、彼女らのデータをドイツ語版のソフトから日本語版のソフトに移し替えているとき、大変面白いことに気づいたのです。何とこの三人のホロスコープのアセンダント（上昇宮）が、それぞれ、Ｕが獅子座の９度３２分、Ｔが獅子座の７度４分、Ｎが獅子座の７度１０分で、わたしの上昇宮、獅子座１０度４８分とわずか４度以内にあるのです。上昇宮は生まれた時に東の空から昇りつつあった星座のことです。東の空には２４時間で、黄道１２宮の星座が順繰りにかかってきます。それがたまたま４人、ほぼ同じ位置にあったのです。これが何を意味するかというと、数学的にいうなら、黄道１２宮が刻まれているルーレットがあるとして、そのルーレット全体の１２分の１を占める獅子座という特定の場所に、続けて三人が、玉を入れたことになるわけでして、確率は、１２の三乗分の１で、１／１７２８となります。さらに全体３６０度の内の４度の中に入ったということで計算すると、３６０分の４の三乗分の１で、１／７２９０００となります。後者の方がこの場合、実情を反映しています。つまり７２万９千分の１の事象が起こったわけです。他の例でたとえると、スロットマシーンで、レバーを引いたら、一つのリールに９０もの違った絵柄があるのに、一発で４つのリールの絵が全部同じになったのと同じ確率です。これが数学的な意味ですが、それでは神秘学的にはというと、次のように考えられでしょうか。この科目は選択科目であり、義務で受けるのではないので、ドイツ語に対するやる気の他に、わたしと何かしらのつながり（相性のよさとか）がある者が選択したということがまず考えられます。そして登録し、出席している学生は１５名ですが、その中から、３名だけが名乗り出たのですから、彼女らは、占星術に興味があったということの他に、わたしとのつながりが、とりわけ強い者であるはずです。最初の学生のアセンダントがわたしのものと最も近く、１度１６分しか違わないことも示唆的です。あとの二人は、お互いのアセンダントがほんの６分しか違わないということも大変興味深いです。この二人は、１、２年のときわたしの授業を受けていて互いに親しく、いつも並んで座っていますが、アセンダントもほぼ並んでいるわけで、同じ星が同じハウスに入っていて、きわめて似たホロスコープです。動きが激しくたいていは人により違う位置にある月まで、生年月が４ヵ月違うのに、同じ獅子座に来ています。
このことを学生に伝えると、噂が広がって、このクラスの来年度の選択者が、わたしとの関係を意識してしまうかもしれません。そうなるとデータが純粋なものでなくなるおそれもあります。学生にはこの発見は伏せておいて、また次年度ホロスコープ希望者を募り、密かにアセンダントを調べてみるのもいいかもしれません。わたしの勘では、次回はたぶんこんな形の一致はでないと思います。初めてのクラスだったから、その「初めて」という特殊な条件下で、明瞭な形で出たと思うのです。しかし、占星術を知らなかったら、こんな不思議な事実があったことに気づかないわけですね。ふだんから人との出会いや、離散集合にはすべて、神秘的学的な裏付けができるのでしょう。」
後書き
以上は友人に送った手紙だが、その１年半後、知り合ってまだそれほどたっていないドイツ人にこのことを話した。このドイツ人男性とは相性がいいというか、話がはずんで、一緒にいて楽しい。関心事も重なっていて、星占いも信じていた。彼は、にやっと笑うと、「私の上昇宮も獅子座だ」と言った。私は「家内もそうだ」と答えながら、自分が、上昇宮が獅子座の人間ばかりに取り巻かれているような気がしたものである。
なお、次年度にも自習用にドイツ語の星占いを募ったが、予想通り、最初の年のようなことは起こらなかった。このように占星術は隠された連関性を明かしてくれるが、好奇心程度で関わるべきものではない。この術は、人の運命をも左右しかねない力を持っており、使う当人には人の運命に関わる覚悟と責任が生じる。また、未来予知はとくに人の意志決定を妨げるので、絶対にやめるべきだと思う。天使や仙人でもない分際で、ひとの自由意志に制限を加えてはならないと思い知り、去年の４月に占星術を止めた。
１９９９年８月２４日