シュタイナーの世界 ８
キリスト論
キリストの降臨まで
秘教的キリスト論の持つ意味
キリスト論は主に１９０６ 年から１９１８年にかけて行なわれた
太陽霊としてのキリスト
シャンバラ
人間の構成要素
地球の各進化期
高次霊の霊的位階 と構成要素
黙 示録に出てくる眼だらけの存在は権天使
イェホバ神
原罪
アダムとイブ
キリストの霊的位 階
キ リストの降臨に驚く神々
あとがき
シュタイナーはその霊視能力を用いて、キリストをめぐる事象の秘教的意味を明かしています。キ リスト事象は人類が経験した最高の霊的恩寵であり、人類進化の根源的原動力になっているとシュタイナーは考えます。それは単に２０００年前に芽生え、その 後キリスト教徒の間で受け継がれてきた信仰という、外面的捉え方では済まない、秘義をもっているのです。キリストの教えは４つの福音書の内に残され、その 教えは神父や牧師の口を通して人々の心の中に広がっていく一方、聖書に述べられている言葉の正確な意味が、地道な聖書学によって研究されています。その教 えから、高次な存在に対する敬虔な思いと隣人への愛が生まれ、聖書学からは、言語学的な誤謬が正され、正しい読み方ができるようになれば、キリストに対す るそれ以外の関わり方は不必要に思われるかもしれません。そして、本当にそれだけで、敬虔な思いや、真実の愛を呼び起こされる人も少なくないことでしょ う。しかしシュタイナーはそうした関わり方だけでは、時にその目的が達せられないばかりか、却って誤謬が入りこむ可能性すらあるのが、現代のあり方だと考 えています。福音書はそれが書かれた当時、直接キリスト事象を洞察するルチファー的グノーシスと均衡を保つ目的で人々に与えられたのだと、彼は言います。 それを、２０００年後の、唯物的時代にそのままに受け取るだけでは、字句の表面的意味に捉われるアーリマン的態度を生む恐れもあるわけです。宗派の分裂は まさに、人々の間に分裂と反目を起こそうとするアーリマンの思惑にはまっているわけです。しかし彼が、これまでは特別な秘儀参入者にしか知られていなかっ たキリスト事象の秘教的な意味を人々に伝えようとしたのは、単にグノーシスへの回帰ではなかったのです。人間の自我のあり方は、２０００年前とは大きく異 なりました。人間はその自我の進化の現段階で、皆がキリスト事象の秘教的意味を知るべきだと彼は考えるのです。普通の理解の仕方とは別に超常的な仕方で突 然訪れる霊的なヴィジョンといったものも、キリスト教の歴史の中で繰り返されてきましたが、シュタイナーは、そのようなヴィジョンを可能にするイマギナチ オーンを意識的にコントロールし、しかもその内容を論理化できた人でした。精神（霊）科学に基づいたキリスト論が、そこから生まれたのです。彼は、キリス トが地球の進化に関わった経緯や、アーリマンやルチファーの悪の働きの秘義を、現代人は明確に知るべきだと考えたのです。自我による明確な意識化が誤った 道に迷いこむことから人間を守るというのです。それは霊的な内容を、没我状態、霊媒状態で手に入れようとする太古のあり方と決別し、その内容を自我の明確 な意識によって咀嚼することが、自我のさらなる霊的発達に必要だとする精神（霊）科学の基本に沿った考えです。
キリスト論は主に１９０６年から １９１８年にかけて行なわれた
彼がキリストを前面に出して論じ始めたのは１９０６年でした。１９００年に宇宙進化の壮大なイ マギナチオーンを得てから、特に１９０２年以降次々と重要な認識を獲得した彼は、１９０６年に至って地球進化の中核であるキリスト事象について語り出した のです。この１９０６年から１９０７年にかけてが、シュタイナーにとって、ひとつの転換期であったと思われます。その後、１９０８年から１９１２年にかけ て行なわれた四福音書論を経て、おおよそ１９１８年までさまざまなテーマでキリストが論じられます。１９１９年以降は、社会への働きかけが活発となり、教 育や社会論に重点が移りますが、これはキリスト論からそれたのではなく、むしろその叡知の地上への具体化を試みたのだと考えられます。キリストの前面に あって人類に直接関わっている大天使ミカエルについて「ミカエルの使命」の連続講演が１９１９年に行なわれたのもそのひとつの表れでしょう。シュタイナー が逝去する前年の１９２４年８月、「個々の人間と人類進化の内に働くカルマ」（「カルマ的諸連関の秘教的考察」６巻シリーズの最後の第６巻、全集２４０番 所収）では、キリストのあり方が再び具体的に述べられています。以上述べた講演等に基づいて以下にシュタイナーのキリスト論を展開してみます。
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イエス・キリストはいったい実在の人だったのだろうかという議論がありますが、シュタイナーの 霊的探求によれば、イエスは実在の人であり、キリストはイエスに宿った高次の霊的存在でした。過去にも人間以上の存在が特定の人間に宿ったことはありまし たが、キリストは、その中でも最高次であり、この受肉は空前絶後の出来事でした。そのような大きな、決定的な出来事は、以前から特別な霊能者たちにはキャ チされていました。古くからキリストの降臨を予言していたヘブライの預言者たちもその霊能者の内に入りますが、人々の前に姿を現さない秘儀参入者たちの間 でも、キリストの降臨は予知されていました。しかし、キリストはいったいどこからやってきたのでしょうか。天国からとか、霊界からとかいう答え方もあるで しょうが、秘教的には、その源をもっと特定することができます。シュタイナーによれば、キリスト霊は太古には太陽に棲む高次霊であったということです。太 陽は自然神として崇められてきた歴史もありますが、現代の唯物的な認識の仕方では捉えられない存在を、太古の霊視力が見ていたという事実をシュタイナーは 指摘します。古代アトランティス時代にも、太陽神託所の秘儀参入者たちが、太陽霊としてのキリストから啓示を得ていました。この神託所には、アトランティ ス時代に大天使を宿らせた偉大な秘儀参入者たちのエーテル体が保存されていました。太陽神託所の最高指導者マヌは古代アトランティスが滅亡していく際に、 その７つのエーテル体とともにアジアの或る地域に移動します。マヌは、他の人間から全く隔絶されたその地で、弟子を養成して、その中から最も優れた７人を 選び、彼らに先のエーテル体を植えこみます。この７人のリシと呼ばれる者たちが、アトランティス期後の第一期、古代インド文化期に送り込まれ、指導者とな るのです。その古代インド文化期にヴィシュヴァ・カルマンとしてして崇められていた太陽神が、のちにキリストとなる太陽霊と同じものです。また、第二期の 古代ペルシャ文化期では、太陽霊はツァラトゥーストラによって、アフラ・マヅダと名付けられます。これは、ツァラトゥーストラが興したゾロアスター教の善 神の名ですが、悪神アーリマンと同様、単なる一宗教の神にとどまらない霊的本質をツァラトゥーストラが霊視していたということになるでしょう。なお彼の自 我は霊界での浄化を必要としないほどに発達していて、もっぱら地上の人類の進化に寄与する働きをします。のちにイエスの少年期に重大な役目を果したのもそ のひとつの現れです。彼のアストラル体は、第三期の古代エジプト・カルデア文化期のヘルメスに宿り、ここに「ヘルメスの秘儀」がもたらされます。しかし、 こうした秘儀の内容は、太陽からのキリストの下降が始まるとともに変化しだします。太陽からの太陽霊キリストの下降は、イエスが現れるずっと以前に始まり ますが、この分離と地上領域への下降の始まりは、高次の意味で、神の死と言えるものでした。秘儀参入者の魂は霊界に出ることができたわけですが、「神の 死」によって、その霊界の様子が変わってきたのです。下降の始まる前、ツァラトゥーストラの頃の参入者は、幸せな思いを抱くことができました。人体を作る 力の全てが、アフラ・マヅダと結びついていると知るだけで幸福感を抱けたのです。古代エジプト文化後期から、参入者は霊界に昇っていっても、世界の謎に対 する疑問に答えを得られなくなります。この頃の参入者は諦観を抱きながら地上に戻るほかありませんでした。彼らは徐々に死につつある神の臨終に立ち合った のです。ここから、嘆くイシス（天）の腕から奪われていくオシリス（天来の声）の神話が生まれます。エジプト文化期の前期と後期の境界はモーゼの生きた時 代でした。モーゼは、エジプトの密儀に参入し、それを携えて移動しますが、その密儀の中には、未だ、オシリスの秘義、天来の声、世界の言葉が保たれていま した。こうして古代エジプトの秘儀の核心は、古代ヘブライの秘儀の内へと移行します。キリストの降臨はますます近付き、ヘブライ民族のもとで、予言が行な われます。こうして、第四の古代ギリシャ・ローマ文化期に、太陽霊キリストの降臨を迎えることになります。（以上『神秘学概論』の第４章、全集１１０番 「霊的ヒエラルキーとその物質界への反映」の第６、７講演、全集１４４番「東洋とキリスト教の秘儀」第３講演などから）
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なおマヌが引き篭もったアジアの或る地域の名をシュタイナーは挙げていませんが、そこを伝説の 秘境シャンバラであると言ってしまうことには問題があるかも知れません。シュタイナーが名を挙げないのには、それなりの理由があるからと思われるからで す。その地はその後も人類の進化、人間の文化に密かに影響を与え続ける神託所となっているとだけ言っておきましょう。なお彼は別の箇所でシャンバラについ て言及しているので、それをここに引用しておきます。
「東洋の文書、とりわけチベットの文書は、消えてしまったと言われる或る国について多くのページ を割いています。それらの文書はその国を悲しみをこめてシャンバラと呼んでいます。それはカリ・ユガの時代（霊界が見えなくなった、霊的に暗黒の時代のこ と、訳注）に消えてしまったと言われている国です。しかし、秘儀参入者たちがシャンバラに引き篭もり、人類進化の促進のために必要とされているものをその 地から引き出して来ることができる、ということは間違いないところなのです。すべての菩薩は力と知恵をシャンバラの国から引き出すのです。平均的な進化段 階にある人間にとっては、その国は消えました。しかし、この国シャンバラが再び人間のもとに戻ってくるはずだという予言が存在しているのです。霊視の微妙 な諸力が現われ、次第に強化され、広範なものになっていけば、そしてまた、この力が太陽存在に由来する善なる諸力として受けとめられ、ハレー彗星がもたら す諸力（唯物的思考を促進する力、訳注）の代わりに作用するならば、その時には、シャンバラが再び現れてくるでしょう。」（全集１１８番、１９１０年３月 １３日の講演の最後近く。１４１ページ）
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ここで精神（霊）科学の基本事項の確認をしておきます。シュタイナーもよく講演のあちこちで人 間の構成要素や、宇宙進化期の確認を繰り返しますが、それは新らたに参加した聴衆に紹介する意味と、何度も聞いている人に想起を促す意味とがあると思われ ます。ここでも、それにならおうと思います。
人間が体の他に魂や精神（霊）をもっているということは、目に見えない世界に関心のある人なら 必ず触れることになる世界観ですが、シュタイナーは『神智学』（１９０４年）で、その体、魂、精神（霊）という分け方をしているものの、むしろそれは例外 で、それ以降は、たいてい、精神（霊）科学に基づいた、別の分類をしています。まず体は単に体とは言わないで物質体と呼びます。物質で出来ている体の意味 ですが、生命力や成長力を司るエーテル体がこれに浸透することによって、物質体は命を帯びます。鉱物は、構成要素としてこの物質体だけをもっていて、エー テル体は、ほんの兆ししかありません。植物は鉱物と違って、しなやかに風に靡き、生長しますが、それは植物が、物質体の他にエーテル体ももっているからで す。動物は物質体とエーテル体の他に、感情を担うアストラル体をもっています。人間は動物がもっている３つの構成要素の他に、さらに自我をもっていて思考 もするわけです。（以下に図示します。横に見ます。）
構成要素
自我 アストラル体 エーテル体 物質体
鉱物 ○
植物 ○ ○
動物 ○ ○ ○
人間 ○ ○ ○ ○
また、現在の物質的な世界が現れる前に、痕跡が全く残っていない別の世界があったとされます。 その世界は、全てが物質より繊細な素材で出来ていて、地球の霊的前身が、霊的太陽のまわりをめぐっていたといわれます。シュタイナーはこの霊的惑星を旧月 と呼びました。そしてこの世界が続いた期間を月進化期と名付けています。月といっても、現在空にかかっている月と直接関係はありません。月進化期の世界 は、月の出の時に微かに比喩的に感じられるだけだとシュタイナーは言います。月進化期中、人間の祖先は、アストラル体、エーテル体、物質体（現在の物質は ありませんから、形をなす「力の場」のようなものと考えられます）をもつ動物レベルの存在でした。この月進化期はその最後に全ての存在が、霊的探求も届か ない高次領域に昇って終わります。そのあと、また存在が低次領域に降りてきて、今度は物質が現れる地球進化期が始まります。月進化期の前には、さらに別の 世界があり、この時期、地球の前身と霊的太陽は結合していたといいます。この時期を太陽進化期と呼んでいます。人間の祖先はこの時期、エーテル体と物質体 だけの、植物状の存在でした。さらにもうひとつ前の世界は霊的太陽の輝きすらない昏い世界で、一種の熱の集まりのような旧土星が存在していました。人間は この土星進化期には、物質体だけしかもっていませんでしたが、物質もない時期ですから、いわば影のような存在だったといえます。以上の進化期と人間の構成 要素の関係を表にしておきます。
自我 アストラル体 エーテル体 物質体
土星進化期 ○
太陽進化期 ○ ○
月進化期 ○ ○ ○
地球進化期 ○ ○ ○ ○
イエスは神の子と言われていますが、イエスに宿ったキリスト霊はいったいどれほど高次の霊だっ たのでしょうか。それについては、精神（霊）科学的探求によってシュタイナーが答えを出しています。そのような探求は不要だと主張するキリスト教徒もいる でしょうが、その探求によってゴルゴダの秘儀以後のさまざまな変化を論理的に理解する道が開け、心を向けるべき方向が確固たるものになるのであれば、決し て不要なことではないと思います。キリストの位階に触れる前にまず、キリスト教で聖秩といわれる天使存在の序階を見てみます。その存在の構成要素を精神 （霊）科学的に解明すると下図のようなものになります。
（縦に見ます。○のある構成要素が下端の天使存在を構成しています。霊人以上の構成要素は人間進化と直接関わりがないため、名称がなく、数字で表しておきます。右 端の主天使以上にも、座天使、智天使（ケルビム）、熾天使（セラフィム）が存在します。）
構成要素
10
○ 9
○ ○ 8
○ ○ ○ 霊人
○ ○ ○ ○ 生命霊
○ ○ ○ ○
霊我 ○ ○ ○ ○
自我 ○ ○ ○
アストラル体 ○ ○
エーテル体 ○
物質体
天使 大天使 権天使 能天使 力天使 主天使
（なお、以上は地球進化期の場合です。ひとつ前の月進化期に は、○はすべて下にひとつづつずれます。例えば、人間が月進化期には、アストラル体以下しかもたない動物 状の存在であることは既に述べましたが、天使は、月進化期には自我、アストラル体、エーテル体、物質体の人間レベルの存在でした。進化期がひとつ遡る毎に レベルがひとつ下がります。ですから、３段階遡った土星進化期には権天使が人間レベルにありました。）
諸天使の構成要素を知るだけでも、実に多くのことが分かってきます。例えば、ヨハ ネ黙示録４．７に、６つの翼をもち、前にも後にも一面、眼がある存在が天の玉座の周囲にいる情景がありますが、これはシュタイナーによれば、自我が一番下 位の要素である権天使のことです（全集１０２番「霊的諸存在の人間に及ぼす作用」第２講演、３９ページ）。自我が、人間のようにアストラル体やエーテル体 などの下位の要素に包まれておらず、周囲にいわばむきだしになっている様子が、沢山の眼として描かれているわけです。もちろん、権天使にとって、その自我 は人間の物質体に相当する最下位の要素であり、人間の自我に相当するのは霊人です。権天使は霊人まで完成させているわけです。さらに上の８、９、１０の要 素も兆しとしてもっていますが。なお権天使は人間と深い関わりをもった霊的存在です。現在は時代霊として、時代のありかたを司っています。
座天使以上の天使存在は、土星進化期が始まった時にすでに太陽系で行なうべき進化 を終わっていたとシュタイナーは言います。これらの最高次の霊的存在は、土星進化期が始まる時にその発端を作りました。智天使たちは、獣帯の１２の方向か ら旧土星をとり囲み、作用していたそうです。シュタイナーによれば、最高次の３つの天使存在は地球進化期では既に人間との直接の関わりがないそうです。上の表にはありませんが、もし座天子の構成要素を表に載せると、最低次の要素が、霊人を上回る８番目の要素になりま す。智天使はそれが９番目、熾天使は１０番目になります。このことからも、この３つの最高次の天使存在がもはや人間と直接の関わりがないことが分かるで しょう。人間は現在、霊人以上の要素は兆しとしてももっていません。
旧約聖書の神はイェホバ（ヤハフェ）ですが、この古代ヘブライの神は、どの民族の 創造神もそうであるように、世界を創造し人間を作ったことになっています。シュタイナーの宇宙と人間の進化論には、人間進化とそれに関わる霊的存在の詳細 な叙述があり、その秘教的な智から、この創造神イェホバを解明する手がかりを得ることができます。さきほど、土星進化期の影人間について述べましたが、影 とはいえ形態をもてたこの時、初めて人間が誕生したといえます。その時、人智学で形態霊と呼ばれ、キリスト教では能天使といわれる霊存在が、人間の形態形 成に関与しました。形態霊（能天使）は、この土星進化期には霊我＋自我＋アストラル体＋エーテル体の存在でした。人間は、影の形を得る以前は、一種の熱の ような存在であり、土星はイチゴの房のように蝟集した熱状の人間原基の集合体でした。前述の全集１０２番の第４講演（６７、６８ページ）では、形態霊が旧 土星を取り巻き、そのエーテル体から、結実を促す生命力を、その土星の人間原基に放射する様子が描かれています。土星はそれを鏡のように反射し、そこに、 一種の鏡像が生じますが、この影のような像こそが、当時の人間の物質体となったのです。そして、その像は、形態霊の鏡像であるわけですから、「神の似姿」 といえます。この形態霊（能天使）が、人間を作った創造神といえるでしょう。これは、全集１３７番「秘儀学、神智学、哲学から見た人間」第８講演（１４５ ページ）、２４３番「秘儀参入者の意識」第１０講演（２１４ページ）、『神秘学概論』第４章（訳本１５５ページ）などにも出ています。
以上の出来事は、最古のものに属しますが、進化期を下って、地球進化期の様子を見 ることにします。そこでは、まず、それまでの進化を反復して、土星反復期、太陽反復期、月反復期があったあと、地球進化期本来の進化が始まります（これら 反復期と人間の進化との関係は下図に挙げておきます）。
地球進化期 人類名 状態 土星反復期
既に得ている３要素の内、物質体を進化させる。
極地人
太陽反復期
エーテル体を進化させる。
極北人
月反復期
レムリア人 レムリア期半ば、形態霊が自我の火を人間のアストラル体に植え込み、自我要素のひとつ、感受魂が生ずる。インスピラ チオーン意識をもつ。
アトランティス人 自我の火がエーテル体に浸透し、もうひとつの自我要素、悟性魂が生ずる。イマギナチオーン意識でエーテル界が見え、 物質界はまだ見えない。アトランティス期２/３の頃、自我の火が眉間から物質体に浸透し、初めて感覚器官が物質界を捉え出すと同時に、３つめの自我要素の 意識魂が生ずる。
現生人類 １．古代インド文化期
２．古代ペルシャ文化期
３．古代エジプト・カルデア文化期：感受魂を 発達させた時代。
４．古代ギリシャ・ローマ文化期：悟性魂を発 達させた時代。
５．近現代：意識魂を発達させるべき時代。
第６文化期
第７文化期
第６根源人種
第７根源人種
自我の諸要素とその成り立ちも図示しておきます。
感受魂 形態霊の自我の火が人間のアストラル体に作用して生まれた。動物はもっていない。 人間のアストラル体は、魂体としてこの感受魂を包んでいる。 自我 悟性魂 自我の火がエーテル体に作用して生まれた。狭義にこれを自我とみなす場合もある。
意識魂 自我の火が物質体に作用して生まれた。
（以上の自我の形成のプロセスは全集１０２番第４講演によりま すが、『神秘学概論』第４章では、悟性魂と感受魂の最初の原基は月進化期の晩期に力天使が人間のエーテル体、アストラル体に働きかけて生まれ、地球進化期 の始まりとともに再び感受魂、悟性魂、意識魂の順で原基が現れたことが述べられています。形態霊の働きかけはその後に行なわれ、原基の本格的な成長を促し たのだと思われます。） シュタイナーの説では、このうち太陽反復期まで、太陽も月も地球とひとつの天体で あったということです。この太陽反復期が終わると、太陽は地球と分離します。その際、太陽と一緒に高次霊たちも地球から離れました。その高次霊たちが、太 陽を分離したとも言えます。太陽に移り棲んだ高次霊には、エロヒムといわれる能天使レベルの存在６つと、他にキリスト霊も加わっていますが、エロヒムと同 じレベルにあったイエホバ霊だけはとどまります。イェホバは月反復期の間、地球にとどまるのです。この存在は他のエロヒムの中では、月進化期（月反復期で はありません）中の進化を最後に終えた経歴をもちます（全集１０２、１０３ページ）。同じ能天使レベルの高次霊でも進化の度合いに差があるわけです。こう した進化の差は、その霊に特定の役割を与えることになります。このイェホバの場合は、レムリア期半ばに人間に自我の火を植えこむ役目を帯びます。イェホバ が属する能天使の構成要素を見てください。霊我が最低次の要素になっていますが、ひとつ前の進化期である、月進化期には、最低次の要素は自我であったわけ です。この自我は、地球進化期には不要になります。エロヒムの中で月進化期の進化を最後に終えたイェホバは、その脱ぎ捨てた自我を、地球進化期のレムリア 期に自我の火として、人間に植えこむことが出来たのです。このイェホバは、月とともに地球から離れ、月上から人間の形態に作用するようになって、月反復期 は終わります。それ以来、地球周辺の霊的空間も変化をきたし、人間は死後暫らく、太陽上の諸霊を見ることができなったといいます（これはアストラル界の形 成ではないかと思われます）。また、秘儀参入者も、月上のイェホバを通してでなければ、太陽霊の光を見れなくなります。いわば、太陽の光を反射した月の光 を見るわけです。こうして、古代ヘブライ人はイェホバ霊を神として崇めることになりました。
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ところで、イェホバとは別に、月進化期中に進化に異常をきたし、この期間の能天使 としての進化を全うしなかった霊的存在もいました。地球進化期の、ちょうど月が分離する頃になると、このいわば覆面をした能天使、権天使レベルに停滞した 存在は、人間に悪を囁く役回りを帯びます。この悪霊ルチファーは、レムリア期の人間のアストラル体に取り憑き、悪の可能性を人間に与えたのです。ルチ ファーが植えこんだこの悪が、キリスト教でいう原罪に当たります。これ以降、人間は太陽霊の作用を認識できなくなり、いわば、天国の楽園から追放されま す。しかしこのルチファーの介入は、人間に自由を与え、これ以降の人間進化に必要な回り道を用意したともいえます。
善霊から自我の火を与えられながら、悪霊から悪をも植えこまれたこの頃の人間が、 聖書でいうアダムとイブの時代の人間であるわけです。蛇は、人間の頭蓋と脊椎の形を表わし、ルチファーが宿ったアストラル体に対応する神経系統を象徴して いるそうです。なお、月が地球と結合していた月反復期の末期、形態を硬化させる月の力が強くなりすぎ、人間の魂を宿らせられる物質体は地上からほとんど姿 を消し、人間の姿はほとんどなくなってしまいます。たいていの魂は、別の惑星に一時移ることを余儀なくされます。その中にあって、進化した自我のおかげ で、この時期の地球にとどまることができた人間たちがアダムとイブと呼ばれる者たちに相当します。しかし彼らは、ルチファーの力に捉えられるわけです（こ のあたりは『神秘学概論』訳本２２５ページ以降も参照できる）。さて、月の分離後、硬化の力が、和らぎ、物質体が人間の姿を帯びる可能性が増してから、ア ダムとイブの子孫に宿る魂たちが、他の惑星から戻ってきました。この子孫の一部は、アトランティス時代の太陽神託所で秘儀をうけます。こうして、アトラン ティスが大洪水とともに滅亡する時、マヌはアダムとイブの子孫の最も優れた者たちを連れ、アジアの或る地域へと移動することになります。これが先に述べた 古代インド文化期の指導者となるわけです。この神託所に、ルチファ−の力の影響を受けていないアダムのエーテル体の一部が保管され、のちにナータン系のイ エスに受け継がれることになります（「ルカ伝」第４講演）。
さて、太陽から下降しイエスに宿ったキリスト霊は、月神イェホバ霊の背後にいる太 陽霊であったわけですが、イェホバが能天使に相当するのだとしたら、キリストにもそれなりの霊的位階があるはずだと考えられます。シュタイナーは全集 １０２番の４章、８０ページで次のように言っています。
「形態霊（能天使）は最低次の構成要素として霊我をもっているわけですが、他にも 最低次の構成要素が人間の５番目の要素の霊我、マナスではなく、６番目の要素、すなわち生命霊、ブッティーであるようなが別の存在が地球と結びついていま す。我々の周囲に最低次の構成要素が我々の生命霊に等しい高次霊のための大気が存在するのです。地球進化期の始めに外部から人間に自我が注入されたことは 真実ですが、同じように、地球進化期の特定の時点で、人間に対し徐々にブッディーの力の全てを注入する存在の最初の一歩、最初のステップがしるされたとい うことも真実なのです。」
「特定の時点」がゴルゴダの秘儀の時であり、この存在がキリストであることは、先に 本論第２章で挙げた全集２４０番の中の特に「個々の人間と人類進化の内に働くカルマ」第３章で明らかになります。そこでは、ゴルゴダの秘儀によって生命霊 を地球の大気に加えたキリストのことが論じられています。詳しくは後編で述べますが、キリスト霊は力天使レベルの高次霊のひとつであることが、これで判明 します。人間より３つレベルの高い権天使から人間を見ると、その懸隔は、人間より３つレベルが下がる石ころ（鉱物）を人間が見る場合に等しいことを考えれ ば、その権天使よりさらに２つ上位の力天使の存在の遥かさは、とほうもないものです。そのような高次霊が人間に宿り、直接、人類と接触してきたということ はまさに想像を絶する出来事です。人類にとってキリスト事象がどんなに大きな恩恵であるかを感じとるには、気が遠くなるような懸隔をしっかり見据える認識 力も必要ではないでしょうか。
最後に、キリストが地球へ降りていく様子を他の高次霊たちがどのように見送ったか について、全集２２３番「地球の呼吸過程としての季節の移り変りと４大祝祭」第２講演から、シュタイナーの言葉を引用して前編の締め括りとしたいと思いま す。
「神々（高次霊のこと：訳者）はキリストが天界を去り、人間の内に潜りこむ様子を 見ていました。この時、人間界にとっては、キリストが現れたわけですが、ある種の霊界にとっては、キリストの姿は消えてしまったのです。そしてキリストは 復活をすることによって、地球の内から、いわば星のように輝きながら姿を現わし、地球圏外のある種の霊的存在たちはその輝きを目撃したのです。この星の輝 きは、地球からその霊的存在たちに向け、霊界のなか深く、光を投げかけたのです。霊的存在たちの側では、ゴルゴダの秘儀を描写して、こう言います：「地球 からひとつの星が輝きだし、霊の国に光を放射し始めた」と。
そして、キリストが人間の体の内に潜りこみ、人間の 体の内で死を共に体験したということは、霊界にとって、極めて意味深いことに感ぜられたのです。なぜならキリストは、人間の体の内で死を共体験することに よって、キリストのかつての仲間の神々がさしあたりできなかったことを、その死後、直接行なうことができたからです。このかつての仲間の神々とって、人間が昔、地獄と呼んでいたものが、やはり自分た ちと敵対する世界でした。しかしこれらの霊的存在が及ぼす力は地獄の門の内側には届かなかったのです。その力は人間に及ぼされましたが、一方、人間の力は 地獄の中まで入りこんでいたのです。これは人間が、冬期にアーリマンの諸力の内に無意識にはまりこんでいくということであり、春にこのアーリマン諸力が、 大地からたち昇ってくるということです。神的霊的存在はこれを自分たちに対立する世界と感じていました。彼らは、その諸力が地球からたち昇ってくるのを 見、この世界を実に厄介なものに感じていました。しかし、彼らはこの世界と接触するには、人間を介する回り道をとるしかなかったのです。彼らはこの世界を いわば、拱手傍観するしかなかったのです。キリストは地球に降り、自ら人間となることによって、このアーリマン諸力の領域に降りていき、それらをうち負か すことが出来ました。このことは、信仰の中では、キリストの地獄行という形で表わされています。」
以上は連載を中断したあと、個人的に書き継いだもので、後編は結局書かなかった。新たに書きつづける気持ちは今のと ころない。当時予定していた後編の内容だけ以下に記しておく。
後編に予定していた内容
１．ゴルゴダの秘儀以前と 以後の違い
瞳の奥に以前はルチファーが、 以後はキリストが見える。以前、古代ギリシャの頃、死後の霊界は、灰色なような世界だったのが、光を帯び る。
夢の状態が違ってくる。
自然の中の生命霊の有無
２．今後エーテル界に現わ れるキリスト
３．二人の幼児キリスト
４．最期の審判とは何か
５．アーサー王伝説、聖杯伝説、パルチファル伝説
６．太古の 天使、大天使、権天使の受肉
７．紀元前３千年紀のルチ フェルの受肉
８．紀元後３千年紀のアー リマンの受肉